【2022年4月施行】中小企業にも義務化! 「パワハラ防止法」とは
パワハラ問題が取沙汰されることが増え、世間のパワハラ防止に対する機運が高まっています。こうした社会情勢の変化もあり、法改正がなされ、企業にはパワハラ防止法に従うことが義務付けられるに至りました。
段階的に適用されてきたパワハラ防止法ですが、2022年4月からは中小企業を含むすべての企業に適用されています。
ここでは“パワハラ防止法とは何か”、そして“企業が具体的にとるべき対応とは何か”を解説していきます。
パワハラ防止法とは?
「パワハラ防止法」との名称で呼称されることが多いですが、パワハラ防止法という1つの法律が制定されたわけではありません。労働施策総合推進法のうちパワハラ防止に関する規定を特にパワハラ防止法と呼んでいるのです。
そしてパワハラ防止法では、職場内でのパワーハラスメントの基準を定めるとともに、その防止措置を企業に義務付けています。
パワハラ防止法について知っておくべきこと
パワハラ防止法については細かいルールも把握していく必要がありますが、まずは最低限知っておくべき基礎知識を押さえていきましょう。
2022年4月から中小企業にもパワハラ防止措置が義務化
大企業に関しては、2022年4月以前もパワハラ防止法に則ってパワハラ防止措置を講ずることが法的義務とされてきました。
その間、中小企業については努力義務にとどまっており、業種別に定められていた資本金の額や従業員数の要件を満たすときにはパワハラ防止措置を講じていなくても違法ではないという取扱いがなされていました。
しかし2022年4月からは中小企業であっても大企業同様、パワハラ防止に向けた取り組みを行わなければ違法となってしまいます。
法律については「知らない」が通用しませんので、経営者や法務担当の方はきちんと同法の内容を理解し、必要な措置を講ずるよう社内での取り組みを進めていきましょう。
パワハラ防止法における「パワハラ」の意味
同法では、以下3つの要件を満たす言動をパワーハラスメントと定義しています。
- 優越的な関係を背景とする言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えるもの
- 就業環境が害されるもの
パワハラになり得る行為の具体例として、以下が挙げられます。
- 「暴行」などの身体への直接的な攻撃
- 「侮辱」や「暴言」、「脅迫」、「名誉毀損」などを含む精神的な攻撃
- 「無視」や「隔離」などの人間関係の切り離し
- 過大な要求(業務上明らかに不要なこと、遂行不可能なことの強制など)
- 過小な要求(合理性なく実力とかけ離れた作業を命じること、仕事を与えないなど)
- プライベートに過度に干渉すること
なお、業務上必要であって相当な範囲で行われる業務指示等はパワーハラスメントに該当しません。
しかしながら、“業務上必要であったのかどうか”や“相当な範囲であったのかどうか”は、客観的に判断されますので、自社独自の判断で正当化することはできません。
パワハラ防止法に違反した場合の処分
パワハラ防止法に違反しても罰金を科されるわけではありません。
ただ、厚生労働省から指導や勧告を受けること可能性があります。
その処分自体損失を生むものではありませんが、勧告に従わないときには企業名が公表できるとされていますので、「パワハラ防止措置が十分に取られておらず指導や勧告を受けた」という事実が世間に知られて間接的な損害を被る可能性はあります。
顧客、取引先等からの信用を失い、企業価値を損なってしまうかもしれません。
さらには従業員からの信用をなくすことで離職率が高まり、新たに優秀な人材を獲得することも難しくなってしまうかもしれません。
なお、パワハラ防止法以外の法令に抵触してペナルティを科せられる可能性はあります。
例えば殴るや蹴るといった行為は刑法に規定されている暴行罪にあたります。被害者が怪我を負ったのなら傷害罪も成立します。パワハラは犯罪になる可能性も秘めていることを認識し、予防に取り組むことが大切です。
パワハラ防止に向けて企業が取るべき対応
パワハラ防止法にて、雇用管理上必要な措置とされている主な内容は以下です。
- パワハラ防止に向けた方針の明確化とその周知および啓発
- 苦情などに対する相談体制の整備
- 被害を受けた従業員へのケアや再発防止などの適切な事後対応
企業が取るべき具体的な対応を見ていきましょう。
自社の方針等の明確化とその周知・啓発
企業は、職場でのパワハラに対しどのように取り組むのか、どのように考えているのか、方針を明確に示す必要があります。
そしてその方針は職場にいるすべての従業員に知ってもらう必要があり、単なるスローガンで終わらないよう啓発も行うことが求められています。
パワハラ発生の原因等に関する知識を持ち、これを認識することがパワハラ防止の効果を高めると考えられているためです。
なお、同方針においては、パワハラをはたらいた者に対して厳正に対処する旨示す必要があります。さらにその実効性を高めるため、処分の内容を就業規則等にも規定しましょう。
より積極的な啓発活動として、パワハラ防止に関する社内での研修や講習の実施も行うことが望ましいと考えられています。
相談・苦情に応じるための体制の整備
パワハラを完全に予防することは難しいため、パワハラ被害が起こることも想定し、従業員からの相談に応じることができる体制の整備も必要です。
そこでパワハラ防止法では以下の取り組みを企業の義務としています。
- 相談窓口の設置と従業員への周知
- 窓口担当者が適切な対応をすること
相談窓口は、パワハラが現に起こっている場合に限らず、パワハラにあたる行為かどうかが明らかでない場面においても機能することが求められています。そのため幅広い相談に対応できること、相談後の措置についてマニュアルを整備しておいてスムーズに次のアクションが起こせるようにすることが大切です。
また、相談窓口の担当者が、従業員にとってパワハラ事情を話しにくい人物だと意味がありません。相談のしやすさにも配慮し、必要に応じて委託するという手段も検討すると良いでしょう。
迅速かつ適切な事後対応
パワハラを防ぐことができなかったとしても、その事例を次に活かすという姿勢が大切です。
また、今起こっているパワハラの被害者を救済するためにも迅速かつ適切な事後対応は欠かせません。
基本的には以下の流れで対応していくことになります。
- 事実関係の確認
- 被害者に対する配慮を行う
- パワハラの行為者に対する措置を実施する
- 再発防止に向けた措置を講ずる
まずは事実確認が必要です。
相談窓口の担当者、あるいは人事担当者などが当事者双方から意見を聴取し、パワハラであるかどうかを調査します。言い分に食い違いがあることも考えられますので、そのときは第三者からの意見聴取も進めていくことになりますが、相談者の心情への配慮を忘れてはいけません。
再発を防止するためには、パワハラをはたらいた者に対して、規則に従い懲戒処分を行うことも大切です。
併せて、被害者への謝罪なども行わせるように指導しましょう。
プライバシーへの配慮
どの措置を講ずるときも、当事者のプライバシーに配慮することが大切です。
ここでポイントになるのは相談窓口の担当者の対応です。相談窓口担当者が情報を漏らしてしまったのでは、それ以降従業員が安心して相談を持ち掛けることができなくなってしまいますし、精神的な被害がより大きくなってしまいます。
そこで対応マニュアルを作成し、プライバシーの保護にかかるルールを規定。その内容が遵守されるよう担当者に研修を行いましょう。
そして相談者が躊躇うことのないよう、プライバシーの保護体制が十分に整備されていることを周知するとより効果的です。
パワハラ相談による不利益な取り扱いの防止
当たり前のことながら、パワハラを受けたことを告発したり相談したりしたことがきっかけで、当該従業員が不利益な取り扱いを受けるような事態はあってはなりません。
プライバシーの保護を図るのと同様、就業規則等に「パワハラ相談による不利益な取り扱いを許さない」旨明示しましょう。
内々に規定を置くだけでなく、積極的にその内容を全社に示し、社内全体でパワハラ防止に向けた意識を向上させましょう。