契約書のリーガルチェックが必要な理由と基本的な手法について
ビジネスを行う上で契約書を作成する機会は何度もやってきます。自社で作成するケースもあれば、取引の相手方が作成したものに自社が同意をして締結するというケースもあります。
いずれにしても、原則として契約の成立には当事者間の合意があれば足りるのであり、契約をすること自体何も難しいことはありません。しかしながら安全な契約の締結は簡単なことではありませんし、そのためには契約書の作成が必要です。さらに契約書のリーガルチェックも重要な過程であると捉えられています。これはいったいなぜなのか、以下で解説していきます。
契約書を作成する意義
契約類型によっては契約書の作成がなければ契約の効果が生じないと法定されているものもあります。
しかしながら原則として書面の作成は要件とされておらず、法的にも口約束で有効に契約の効果は生じます。そのためリーガルチェックはおろか契約書の作成自体そもそも法的には必須ではないのです。
契約の効力を生じさせる上で欠かせないのは「当事者の意思の合致」であって、契約書ではありません。逆に言うと契約書を作成したとしても当事者間の意思の合致がなければ契約は有効に成立しません。
にもかかわらず契約書の作成が当たり前と考えられているのにはわけがあります。ざっくりいうと「トラブルを防ぐため」です。
真に当事者間の意思の合致があったとしても、後々一方の都合が悪くなり「合意はできていなかった」と嘘の主張をしてくる可能性もないとは言い切れません。他方が「合意はできていた」と正しい主張をしたとしても、客観的に見るとどちらが本当なのか判断できません。
こうした“言った・言わない”の問題を解決するため、そしてその予防をするために契約書を作るのです。約束した内容を書面に記載しておくことで、正しい主張をしている側がその書面を証拠として使えるのです。
リーガルチェックが必要な理由
作成した契約書を有意義なものとするために大切なのがリーガルチェックです。
リーガルチェックの必要性について以下で具体的に説明していきます。
曖昧な記載をなくすため
契約書の一番の目的はトラブルを防ぐことにあります。当初交わした約束を明記することで約束内容を厳守させるのです。
ただ、記載した内容がアバウトだと結局意味をなしません。抽象的で、解釈が何通りもできてしまうような曖昧な記載だと、そもそもの約束内容が不明確となってしまいます。
そこで法的な観点からその曖昧さを評価し、「この文言だと、こういった捉え方もできてしまう」「この条項だけでは、こうしたトラブルが起こり得る」といった問題点をあぶり出していく必要があるのです。
法的に有効な制約を課すため
当事者間での合意があればどんなルールでも定められるというわけではありません。原則、当事者間が自由にルールを設定できるところ、行き過ぎた内容は法的に無効になる可能性もあるからです。
例えば公序良俗に反する内容、強行法規に反する内容などは当事者間でも勝手に定めることができません。
このことは、公益的な観点のみならず、一方当事者を保護するという観点も含んでいます。特に実質の力関係に大きな差がある、会社と従業員の間で契約を結ぶ場合や、会社と消費者が契約を結ぶ場合などは立場の弱い方を保護する規定が設けられています。
これを無視して契約内容を定めて無効となってしまいますし、かえって会社側の評価を落とすことにもなってしまいます。
そこでリーガルチェックが必要なのです。無効な条項を排除し、どのように定めるべきかを検討します。法的に有効な範囲内で上手く調整していくには専門知識が欠かせません。
不利な契約に拘束されないため
コンプライアンスが徹底されていない企業で、契約内容を精査しないままサインしてしまうケースもあります。
このような形での契約締結はリスクが非常に大きいです。不利な条項が設けられていても気がつきません。多額の違約金を請求されてしまうことも起こり得ますし、一方的に不利なルールに拘束されてしまうおそれもあります。
一見して有利不利の判断が難しいこともありますので、リーガルチェックを通してそのリスクを排斥する必要があります。
また、不利な内容があったからといってそのすべてをなくすよう相手方に求めるのが良いとも限りません。自社に有利な内容に偏ってしまうと相手方の同意を得るのが難しくなるからです。そのため双方が納得のいく形であり、かつ、自社にとっての利益バランスが取れている内容に調整することが大切です。
リーガルチェックの基本的な手法
不測の事態を防ぐためのリーガルチェックは、以下の考え方に沿って進めていきます。
- リスクを想定すること
- まずは当該契約書の内容に沿って取引をした場合、どのような問題が起こり得るのかを想定する
- 取引の仕組み、実態を理解したうえで、どのような得失が生じるのか、どこで利害が対立しやすいのかを把握しなければならず、法的知見に加えビジネスに対する理解や洞察力も求められる
- リスクアセスメント
- 想定されるリスクの内容を評価していく
- 起こり得るリスクすべてに対処し、完全に排斥することを目指すのは非効率であり係るコストが大きくなりすぎてしまう。そこで無視できる程度のリスクなのか、対処すべきリスクなのかの判断を行う必要がある
- リスクマネジメント
- リスクの蓋然性、程度に応じ、具体的な対策を検討する
- その対策が契約書中の条項として表れる。例えば契約解除に関する条項、損害賠償請求や免責に関する条項などを盛り込んでいく
リーガルチェックには高度な専門性が求められます。単に契約書を読んで明らかに異常な箇所がないかをチェックすれば良いというものではありません。もっと言えば、法的な専門性を持っていたとしてもそれだけで十分ではありません。事業に関する問題ですので、ビジネス分野にも強くある必要があります。
そこで、企業法務に強みを持つ専門家に相談するのがおすすめです。過去の実績や専門分野などから、信頼できる弁護士を探して依頼すると良いでしょう。