雇用契約時に交わすべき2つの書面! 雇用契約書と労働条件通知書について記載事項などを解説
会社が従業員を雇うとき、雇用契約を締結します。契約自体は口頭でも成立しますが、雇用契約の場においては書面の交付が法令で求められています。
そこで整理しておきたいのが「雇用契約書」と「労働条件通知書」の2つの書面です。それぞれどのような書面なのか、記載すべき事項についても紹介します。
雇用契約で書面を交わすことの重要性
雇用契約は、使用者にあたる会社と労働者にあたる従業員の合意があれば成立します。
契約書の作成は雇用契約成立の要件とはされていません。
実際、アルバイトなどを雇う場面だと、契約書を交わさずに雇用されている例もあります。
しかし、労働基準法および同施行規則では、労働条件に関して書面で明示・交付することを義務付けています。この義務を果たさないこと自体にも罰則が設けられていますし、将来的に従業員と労働条件に関する紛争が生じたとき、労働条件の証明ができずに会社側が不利になる可能性も高まります。
雇用契約書と労働条件通知書の違い
雇用契約時に交わす書面には①労働条件通知書と②雇用契約書の2つがあります。
①労働条件通知書
労働基準法や同施行規則等に基づき、指定の労働条件を書面にまとめた通知書。正社員のみならず、契約社員やパート、アルバイトなどに対してもこれを交付・明示する必要がある。
求められているのは“労働条件の明示”であり、契約書のように従業員のサインを求める必要はない。
②雇用契約書
民法第623条規定の「雇用(労働に従事することを約し、これに対する報酬を約すること)」に基づいた契約書。当事者双方の同意の上で作成される。
主な目的は労働条件の明示ではなく、“雇用契約を交わしたことの証明”にある。そのため何の約束を誰と誰がしたのかが示せるよう、署名や捺印が重要とされる。
この通り、労働条件通知書は“労働条件の明示”、雇用契約書は“誰と誰が何の約束をしたのかを示す”ために作成されます。
ただ、両者をあえて区別する必要はなく、「雇用契約書 兼 労働条件通知書」といった形で1つの書面にすることも可能です。
“法令で明示すべきことが定められている労働条件を記載した雇用契約書”を作成すれば、両方の役割を果たすことができます。
労働条件通知書への記載事項
雇用契約書も重要な書面であることに変わりありませんが、法令上義務付けられている労働条件通知書には、特に注意する必要があります。
そこで、労働条件通知書に記載すべき事項を以下に整理していきます。
絶対的明示事項について
必ず従業員に明示しないといけない事項があります。これは「絶対的明示事項」と呼ばれます。
少なくとも次の事柄に関する事項は忘れずに記載しましょう。
- 労働契約の期間
- 就業場所と従事すべき業務
- 始業と終業の時刻
- 所定労働時間を超える労働があるかどうか
- 休憩時間や休日、休暇
- 賃金の決定、計算、支払いの方法、支払いの時期
- 昇給
- 退職
相対的明示事項
労働条件通知書への記載が必須とはされていませんが、ルールとして拘束力を持たせるには労働条件通知書への記載が必要となる事項があります。
これは「相対的明示事項」と呼ばれます。
次の事柄に関する事項が明示されていなければ、その無効を主張されてしまうリスクにさらされますので注意しましょう。
- 退職手当
- 賞与や臨時に支払われる賃金
- 最低賃金額
- 従業員の負担となる食費、作業用品その他
- 安全・衛生
- 職業訓練
- 災害補償や業務外の傷病扶助
- 表彰や制裁の種類・程度
- 休職
なお、これらの事項は就業規則に定められていることも多いかと思われます。
その場合、適用される箇所を明確にした上で、就業規則を雇用契約締結時に交付することで、労働条件通知書の交付に代えても良いと解されています。
取締役との契約で書面交付は必須とされない
従業員と取締役は区別して考える必要があります。
従業員と会社は雇用関係に立ちますが、取締役などの役員と会社は委任ないし準委任関係に立ちます。
そのため取締役とは雇用契約ではなく「(準)委任契約」を交わすことになります。
また、一般的な従業員とは異なり選任の手続を行わないといけません。役員報酬に関しても株主総会の議決にて決定させるなど、厳格な手続を要します。
手続が厳格な分、その後の変更も容易にはできないため、慎重に協議を行う必要があるでしょう。
なお、労働条件通知書のような書面を交付する必要はありません。