医療過誤による胎児死亡時の損害賠償|
請求は可能?
医療過誤により胎児が死亡した場合、医療従事者などに対して損害賠償の請求はできるのでしょうか。
これには、産まれる前の胎児やその両親が、法律上どのような権利を持っているのかが問題となります。
この記事では、医療過誤による胎児死亡時の損害賠償請求について解説します。
医療過誤とは
医療従事者の過失によって起きた医療事故を医療過誤と言います。
医療過誤は債務不履行または不法行為に基づく損害賠償の対象です。
被害にあった場合には、医療従事者やその施設に対して、損害賠償請求を行える可能性があります。
医療過誤の損害賠償請求は、被害にあった患者本人や遺族が行います。
医療過誤による損害賠償請求の注意点
医療過誤による損害賠償請求するためには、医療過誤があったことの証拠が必要です。
実際に医療過誤が認められるのか、損害賠償請求可能な事案であるのかを判断するため、細かな調査が必要になることもあります。
そのため問題解決までに長い時間がかかる可能性もあります。
胎児に慰謝料を請求する権利はあるのか
まだ出産に至っていない胎児は、民法上、人としてみなされません。
そのため特別な場合を除き、胎児に法律的な権利は認められていません。
ただし損害賠償の請求権については、胎児であったとしても認められる場合があります。
民法第721条では、損害賠償請求を行う場合、産まれる前の胎児を「生まれたものとみなす」としています。
この規定が適用されるのは胎児が無事産まれた場合のみであり、死産であった場合には適用されません。
したがって死産であった場合には、胎児の死亡について胎児自身の損害賠償請求を行うことはできません。
出産後に亡くなった場合は子ども自身の権利を行使できる
出産前の胎児に対する医療過誤により、出産後にその子どもが亡くなった場合には、胎児時代に受けた医療過誤について子ども自身の損害賠償請求権を行使できます。
たとえ出産直後に亡くなったとしても、無事に出産された時点で胎児には人権が与えられます。
これにより、両親は子ども自身の損害賠償請求権を相続でき、担当した医師などに対しそれを行使することが可能になります。
両親の損害賠償請求
胎児が死産となった場合に損害賠償を請求するためには、胎児本人の権利を行使するのではなく、両親がそれぞれ自身の損害賠償請求権を行使することになります。
母親の損害賠償請求
出生前の胎児は法律上ひとりの人間として扱われない代わりに、母親の身体の一部として考えられます。
そのため、胎児に対する医療過誤は母親自身への不法行為として扱うことができ、母親自身の損害賠償請求が可能です。
その他、近親者に対する損害の賠償として損害賠償請求できる可能性もあります。
民法第711条では、他人の生命を侵害した者は、被害者の両親に対しても損害を賠償しなければならないとしています。
民法上、胎児は人として認められていません。
しかし民法第711条を類推解釈し、産まれてくる予定であった子どもを亡くした親に対してもこの法律を適用させることが可能です。
これにより、精神的苦痛を受けたとして損害賠償請求が可能になります。
父親の損害賠償請求
母親と同様に、父親についても民法第711条を類推解釈し、近親者に対する損害の賠償として損害賠償請求できる可能性があります。
ただし父親の場合、母親よりも認められる慰謝料の額が少なくなる傾向があります。
母親は妊娠や分娩にかかる負担が大きく、その分、子どもを失った精神的苦痛が父親よりも大きくなると考えられるためです。
それぞれの事案によっても異なりますが、父親の慰謝料額は母親の半額以下になることがあります。
慰謝料の額について
医療過誤による胎児死亡の慰謝料額は、その事案によっても異なりますが、一般的には数百万円程です。
ただし慰謝料の額は、精神的苦痛が大きいと判断されるほど高額になります。
精神的苦痛の度合いは妊娠期間によっても判断され、妊娠後期、とくに出産予定日に近いほど、その精神的苦痛は大きいものと判断されます。
妊娠40週前後での医療事故の場合には、2,000万円以上の損害賠償が認められた判決もあります。
初産の場合や不妊治療の末に授かった胎児の場合、精神的苦痛の度合いが大きいと判断され、さらに高額な慰謝料が認められる可能性もあります。
まとめ
この記事では、医療過誤による胎児死亡時の損害賠償請求について解説しました。
胎児を死産した場合には、胎児本人の損害賠償請求権は認められません。
しかし両親は、近親者に対する損害の賠償として損害賠償請求することが可能です。
また母親の場合、自らが不法行為を受けたとして損害賠償請求することもできます。
ただし医療過誤による損害賠償請求を行うことは簡単ではありません。
医療過誤による損害賠償請求をお考えの場合には、弁護士までご相談ください。
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- 公益社団法人 東京青年会議所
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- 公益財団法人 文京アカデミー 評議員
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経歴
-
- 2008年
- 東洋大学法学部 卒業
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- 2011年
- 東洋大学法科大学院 卒業
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- 2011年
- 司法試験合格
-
- 2012年
-
弁護士登録 第一東京弁護士会(登録番号46872)
神保町法律事務所 入所
文京区 行財政改革区民協議会 委員 就任
東洋大学法科大学院アカデミックアドバイザー 就任
公益社団法人東京青年会議所 入会
-
- 2013年
- 初雁総合法律事務所 設立
公益財団法人文京アカデミー 評議員 就任
事務所概要Office Overview
名称 | 初雁総合法律事務所 |
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