白内障手術で失明してしまった! 医療過誤は認められるのか、過去の事例を挙げて解説
白内障は身近な病気です。軽い症状の方、自覚症状のない方、症状は人それぞれですが、比較的多くの方が白内障を患っています。
そのため白内障手術は実施される件数も多く、技術もある程度成熟しており、安全性の高い手術と評価されています。
しかしながら、リスクが伴わないわけではありません。実際、白内障手術により失明をしてしまったという事故は起こっています。
このとき、医療機関側に過失が認められるなら医療過誤として損害賠償請求ができます。医療過誤の問題は専門性が高く、解決も簡単ではありません。
当記事では白内障手術による医療過誤事例を取り上げ、過去にはどのように判断されたのか、損害賠償請求はできるのか、という点を解説していきます。
白内障手術による医療過誤のリスク
白内障は、人体のレンズである水晶体が濁ってしまう病気です。
水晶体が濁ることで、視界がぼやけたりかすんで見えたり、視力に悪影響が及びます。
罹患率は加齢に伴い増加し、高齢者の多くが白内障に罹患しているといわれています。
しかし症状は徐々に表れますし、軽度の白内障だとなかなか自覚できないこともあります。
そもそもすべての白内障患者に手術が必要ということでもありません。
一般的に手術が必要とされるのは、視力の低下が日常生活あるいは仕事に支障をきたしたときです。
そのためそれほど悪化していないものの、法令上一定以上の視力が求められるため、白内障手術を行うという方もいます。
白内障手術の内容
白内障の手術は、年間で100万件以上行われています。
日帰りできるケースもあり、その意味では比較的気軽にできる手術であるとも考えられます。
手術内容としては、基本的に、濁ってしまった水晶体を取り出し、眼内レンズを入れるという手法により行われます。
程度が重い場合は、水晶体の核となる部分も取り出すことがあります。
白内障手術の成功率は高いが医療過誤のリスクもある
白内障手術は、切開の範囲も狭く、身体への負担が小さくて済むケースがほとんどです。
難度の高いものでもなく、あっという間に終わり、痛みを感じる人もほとんどいません。成功率も高く、大きな問題が起こる可能性は低いと考えられています。
ただ、次のような症状が現れることがあります。
- 飛蚊症
小さな糸くず、虫のようなものが浮遊して見える状態 - 眼内レンズの偏位
眼内レンズの位置が動いてしまうこと - 術後眼内炎
施術箇所に菌が入り込み、炎症を起こすこと - 後発白内障
手術後しばらく経ってから、後嚢(水晶体嚢の後側)が濁ること
失敗とまではいえない手術後の反応が起こることもあれば、失明という最悪のリスクも含んでいます。
ごく稀とはいえ、失明のリスクがあることは認識の上、慎重に手術の実施について判断する必要があります。
白内障手術で失明をしたときは損害賠償請求を検討
白内障手術で失明をしたとき、その他損害を被ったとき、医療機関に対して損害賠償請求が
できることがあります。常に賠償金が受け取れるわけではありません。ポイントは単なる医療事故ではなく「医療過誤」として認められるかどうかです。
要は、医療機関側の“過失”に基づいて被害が生じたかどうかです。過失については客観的な証拠を用いて立証する必要があります。
患者側が証拠を入手するのは難しいですが、過去には損害賠償請求に成功した事例もあります。
医療過誤が認められた事例1
白内障手術を受けた75歳の患者が,医療法人および手術を行った医師に対して、手術後網膜剥離を発症しほぼ失明状態になったことについて、損害賠償請求を求めた事例があります。
この事例では、被害者は「医師が手術を途中で中止すべきであったのに、手術を続行したのは、注意義務違反だ」と主張しました。
審理を経て、裁判所は「本件網膜剥離は手術を中止していれば生じなかったものと推認するのが相当で、網膜剥離を発症したことと本件手術の続行には因果関係がある」と判断し、逸失利益と慰謝料等の損害賠償請求を認容しました(鹿児島地裁,H30.5.22判決)。
医療過誤が認められた事例2
白内障手術を受けた74歳の患者が、手術時のミス、術前の無菌処置の不徹底が原因で術後眼内炎に罹患。
左眼を失明したとして、医療機関に対して損害賠償請求をした事例があります。
当該事例では、医療機関側の過失の有無が争点となりました。
医療機関側は、「白内障手術において一定の割合で生じる症状だ」と主張していました。しかし審理の結果、裁判所は「施術中のミスにより生じた結果であり、医師の過失がなかったということはできない」と評価し、原告の損害賠償請求を一部認容しました(東京地裁,H13.1.29判決)。
医療過誤が認められた事例3
白内障の手術中、硝子体出血による硝子体混濁が生じたものの、網膜剥離には至らず、患者は退院。しかしその後患者は飛蚊症や多重複視の症状を訴え、視力の低下などの異常が確認されました。網膜剝離の確認もできたものの、その場ですぐに緊急手術は行われずに期間が経過。
結果的に網膜剥離が進んで右眼がほぼ失明してしまいました。
この事例では、①白内障の手術中に毛様体を損傷したことの過失、②術後の診療で網膜剥離を見逃したことの過失、③網膜剥離の発見後、緊急手術を行わなかったことの過失などが争点となりました。
①と②に関して過失は認められませんでしたが、③につき医師が網膜剥離の状況を把握しつつも直ちに手術を実施しなかったことに対しては過失が認められています。
結果、裁判所は原告の請求を一部認容。3,000万円近くの賠償金が認められています(東京地裁,H15.5.7判決)。
白内障手術によって失明してしまったときは弁護士に相談
白内障手術で失明してしまった、その他被害を受けた、という場合は弁護士に相談しましょう。
損害賠償請求は被害を受けた方自身が行うことも可能ですが、直接医療機関と一個人が争ったのでは希望通りの賠償金を受け取るのは難しいです。
まず、医療機関側や医師の過失を証明するためには、証拠収集が必要です。しかし、その証拠となる各種資料は医療機関側が保有している場合がほとんどです。
そのため公的な手続や医療機関とのやり取りを通して、証拠を集めていかなければなりません。
誠実な対応をしてくれない医療機関だと、個人的に情報の開示を求めてもまともに取り合ってくれない可能性があります。
さらに、証拠として使えるかどうかの判断には医学的知見も必要です。
医療過誤に精通している弁護士に依頼をすることで、協力してくれる医師との連携もスムーズになるでしょう。
そして、有効な証拠が入手できたとしても、それを上手く使って主張立証していく作業も必要です。
そのため法律のプロ、訴訟のプロである弁護士に対応を任せた方が効果的です。
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資格者紹介Staff

法律を知らないばかりに悩んでいる人々の力になりたい。
当事務所は医療過誤のご相談に豊富な経験がございます。
おひとりで悩まず、お気軽にご相談ください。
所属団体・資格等
- 第一東京弁護士会 住宅紛争処理審査会運営委員会 委員会
- 医療問題弁護団
- 公益社団法人 東京青年会議所
- 文京区基本構想推進区民協議会 委員
- 公益財団法人 文京アカデミー 評議員
- 文京区倫理法人会
経歴
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- 2008年
- 東洋大学法学部 卒業
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- 2011年
- 東洋大学法科大学院 卒業
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- 2011年
- 司法試験合格
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- 2012年
-
弁護士登録 第一東京弁護士会(登録番号46872)
神保町法律事務所 入所
文京区 行財政改革区民協議会 委員 就任
東洋大学法科大学院アカデミックアドバイザー 就任
公益社団法人東京青年会議所 入会
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- 2013年
- 初雁総合法律事務所 設立
公益財団法人文京アカデミー 評議員 就任
事務所概要Office Overview
名称 | 初雁総合法律事務所 |
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資格者 | 野口 眞寿 (のぐち まさとし) |
所在地 | 〒113-0033 東京都文京区本郷1-4-4 水道橋ビル4F |
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